犬の耳

犬の耳

読んだ本、聴いた音楽、観た映画などを忘れないための「いぬのみみ」です

オルダス・ハックスリー『すばらしい新世界』


[あらすじ]
人工授精やフリーセックスによる家庭の否定、条件反射的教育で管理される階級社会――かくてバラ色の陶酔に包まれ、とどまるところを知らぬ機械文明の発達が行きついた“すばらしい世界”!人間が自らの尊厳を見失うその恐るべき逆ユートピアの姿を、諧謔と皮肉の文体でリアルに描いた文明論的SF小説。 

 

もっともお気に入りの一冊だ。本州から礼文島に移住した時に持ってきた、数少ない本のうちのひとつである。

 

このディストピア小説が書かれたのは20世紀前半、フォーディズムの時代である。作中、自動車王フォードは神として崇拝の対象になっている(人々は、十字ならぬT字を切る)。みんなが楽しみ、愉快に笑い、不特定多数と快楽のためだけにセックスをしているような「すばらしい」世界。ほどよい労働に従事し、何か嫌なことがあっても「ソーマ」と呼ばれる薬を飲めば一気に幸せな気分になる。そんな文明世界を不安定にさせる「哲学」「芸術」「(本来の意味での)科学」などは、注意深く隠蔽されている。

 

作中の登場人物たちは、文明世界の虚しさや孤独に薄々気がつきながらも、どう表現すればいいのかわからずまごついている。主人公の人物、3人の若い男は友情を深めながら、文明世界とそれぞれのやり方で「対決」する。快楽を追求した文明世界の統治者である「総統」と、あくまで人間本来の尊厳を守ろうとする彼らとの長い議論は白眉である。

 

この本を何度も読み返した。作中の孤独感が他人事のように思えなかったからである。東京を離れて礼文島に移住したのも、根底にはこの作品の影響があるのかもしれない。

 

絶対におすすめの作品。

 

すばらしい新世界 (講談社文庫)

すばらしい新世界 (講談社文庫)