犬の耳

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読んだ本、聴いた音楽、観た映画などを忘れないための「いぬのみみ」です。くらしのお役立ち情報もお伝えします。

宮崎駿『風の谷のナウシカ』


[あらすじ]

「火の七日間」と呼ばれた世界大戦から1000年後、地球は、毒ガスを吐き出し、不気味な蟲たちが徘徊する「腐海」と呼ばれる森に覆われようとしていた。ナウシカは、腐海のほとりにある「風の谷」の族長の娘である。ある日、風の谷に、蟲たちに襲われた1隻の商船が不時着したところから物語は始まる。それは軍事大国トルメキア王国と、それに対抗する土鬼(ドルク)諸侯国との泥沼の戦乱の始まりでもあった。ナウシカはひとり風の谷の命運を背負って、その戦いに飛び込んでいく。

 

ずっと気になっていた本書を、ついに手にとって読んだ。 読了後、私は友人に向かって「筆者はここまで心の奥底に潜りながら、よく心を壊さずに現実世界に戻ってこれたな」と感想を送った。それくらい、これは人間の心の闇の彼方に聞こえる小さな声をすくいだして造られた物語であると思う。

 

主人公ナウシカの心の世界で、虚無が語りかける。それに対して、彼女は答える。「わたし、生きるの好きよ」と。その一言がナウシカのパーソナリティーであり、本書の結末、究極の選択の理由でもある。この作品を読んでいると、ニーチェの『ツァラトゥストラ』を思い出さずにはいられない。どちらも来世を否定し、今ある生を肯定することが強力なテーマになっている。

 

この作品は、嘘をついていないところが良いと思った。単なるお花畑の物語ではない。「悪意」をこれほどまでに鋭い目で凝視したような作品は滅多にないと思う。そして、その鋭い目は、大きな優しさに支えられているからこそ、「悪意」のさらに奥にある「愛情」に気がつくことができたのだろう。それは作品最後の重要な鍵となっている。

また、「救世主」としてのナウシカは、SF映画『マトリックス』と類似するテーマでもある。

 

 傑作である。映画は観たが漫画は読んでいないという人は是非。