アンドレイ・タルコフスキー『サクリファイス』
あらすじ
生命の樹を植える誕生日に核戦争は起こった!
言葉を話せない息子、絶望に混乱する愛すべき人々のために、父は神と対峙する…。1986年カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを初めとする
史上初の4賞を受賞した、映画史に燦然と輝く、タルコフスキーの崇高なる代表作。
日曜の夜に、本作を観た。タルコフスキーの遺作である。本作も、他の作品と同じく水の描写や草原がよく出てくる。主題はタイトルにもなっている「犠牲」である。
冒頭からバッハ『マタイの受難曲』が流れ、幾度となくロシア正教のイコンが出てくる。無神論者だった主人公が受難と対峙するために神に向きあう。作品は極めてロシア的であり、キリスト教的である。
最初からほとんど最後まで暗いのだが、最後、今まで声の出なかった少年が、草原で木に水をやりながら声を出して話すシーンが希望がとても美しかった。その木は冒頭、声の出ない少年に主人公の父親が「毎日水をやれば何かが変わる」と諭していたものだった。
この作品を観た直前、勅使河原が撮った『砂の女』を観ていたのだが、日本人とロシア人それぞれの深層の精神構造の違いが比較できて非常に面白かった。
鑑賞後、私自身、長い暗闇から救済された感覚になった。
犠牲の先には未来がある。そう思えるようになる作品。