村上春樹『アフターダーク』
[あらすじ]
真夜中から空が白むまでのあいだ、どこかでひっそりと深淵が口を開ける。
「風の歌を聴け」から25年、さらに新しい小説世界に向かう村上春樹書下ろし長編小説
マリはカウンターに置いてあった店の紙マッチを手に取り、ジャンパーのポケットに入れる。そしてスツールから降りる。溝をトレースするレコード針。気怠く、官能的なエリントンの音楽。真夜中の音楽だ。
大学2年生のとき、村上春樹を貪り読んでいた時期があった。彼の深層心理を覗くような物語世界は、何か他人事ではないような気がした。その中でも特に好きだったのが、『ねじまき鳥クロニクル』、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』、そしてこの『アフターダーク』だった。『アフターダーク』は、村上春樹の作品の中では異色だ。おなじみの、パスタを茹でてビートルズを口ずさむ「僕」が主人公ではなく、若い女性が主人公で、物語の視点は複数ある。陽が沈んでから、夜が開けるまでの少女の動きを追った作品だ。
夜の都会に大冒険するという、まさにタイトル『アフターダーク』がぴったりな雰囲気が作中から漂ってくる。主人公が住んでいると思われる場所にちょうど私も住んでいた。彼女の行動範囲と私の行動範囲は似通っていたので、余計その作品に引き込まれた。昔、終電を逃して、渋谷の夜明けを歩いていると、よくこの作品のことを思い出したものだ。
短くて、センスが良い。そんな本が読みたくなった時にオススメの一冊。