フョードル・ドストエフスキー『罪と罰』
[あらすじ]
鋭敏な頭脳をもつ貧しい大学生ラスコーリニコフは、一つの微細な罪悪は百の善行に償われるという理論のもとに、強欲非道な高利貸の老婆を殺害し、その財産を有効に転用しようと企てるが、偶然その場に来合せたその妹まで殺してしまう。この予期しなかった第二の殺人が、ラスコーリニコフの心に重くのしかかり、彼は罪の意識におびえるみじめな自分を発見しなければならなかった。
言わずと知れた名作である。よく「○○の罪と罰」と使われるので、読んだ事はなくとも題名は聞いた事がある人が多いだろう。
『罪と罰』の主人公ラスコーリニコフと同い年の23歳で本作を読んだ。新潮文庫の訳はかなり読みやすかったと思う。小説自体は長いのだが、サスペンス的な要素もあって続きが気になり、私は最後まで読む手を止めることができなかった。
主人公の親友である憎めない男ラズミーヒン、気丈夫で美しい主人公の妹ドゥーニャ、主人公に献身的な愛を注ぐソーニャ、ポリフィーリィ、スヴィドリガイロフ......そして陰鬱な主人公のラスコーリニコフ。この物語に出てくる登場人物は誰もがデフォルメされている。
過大な自意識と誇大妄想により、金貸しの老婆を殺すことを思い立った主人公。彼が実際に殺人を犯してから、自らの罪を告白するまでの心理を丁寧に描写している。
作品の伴奏として、当時の農奴解放が進み、「西欧化」するロシアの混迷した様子がよく書かれている。ドストエフスキーは作品を通して西欧から移植された魂のない「思想」にロシアの「知識人」達がかぶれることを警告している。この辺りが、彼が日本の知識層に愛された理由なのかもしれない。
昨今の日本の大量殺人事件を見ていても、本書の意義はいまだ十分に生きている(悲しいことだが)。
読んでおきたい一冊。