犬の耳

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読んだ本、聴いた音楽、観た映画などを忘れないための「いぬのみみ」です

大江健三郎『M/Tと森のフシギの物語』


[あらすじ]

四国の森の奥深く、時の権力から独立した一つのユートピアがつくり出される。「壊す人」と「オシコメ」に導かれて展開する奇想天外の物語は、いつしか20世紀末の作家が生きる世界、われわれの時代に照応して行く……。人間の再生と救済を求めて、雄大な文学的想像力と新しい語りが生んだ感動の大作。大江文学の原点の物語。

 

時にグロテスクで独特な文体である大江健三郎の小説は、どちらかといえば入り込み辛い。しかしそんな私でも、この長編小説は一気に読み進めることができた。

 

四国の山奥の村。「大きな物語」である日本の歴史からは外れ、時には包摂されることに抵抗した村の興亡史は、最終的には現代に生きる我々へとつながる。

 

神話と文学が交錯する物語は、全体を通して、我々日本人にとってはどこか懐かしい匂いがする。ガルシア・マルケスの『百年の孤独』に出てくる村マコンドーの、日本版といえなくもない。しかしそれをはるかに超える、大江健三郎独自の壮大な世界観が物語の中には広がっている。これがノーベル文学賞受賞の理由のひとつになったのも頷ける。彼は愛媛県の森に囲まれた谷間の村の出身である。その土地に根付いた深層の物語と、個人の思想が結びつく様は、それだけで読み手に感動を与える。

 

本好きには絶対におすすめの作品。

 

M/Tと森のフシギの物語 (岩波文庫)

M/Tと森のフシギの物語 (岩波文庫)